ネパール人のインドカレー屋さんにハマる
お昼時に、ふらっと近所のインド屋さんへ行ってきた。
いや、お店の看板にはでかでかと本格インド料理って書いてあるんだけど、以前に店員さんと少しおしゃべりしたときにオレたちネパール人ねって爽やかにカミングアウトされたことがあるから、きっと正確にはネパール人のお店なんだと思う。
まあ、カレーが美味しければ国籍なんてどちらでもいいんだけれど、あの独特のゆるい雰囲気が結構お気に入りだったりする。
席について、メニューを開く。今日はどうしてもしっとりしたお米が食べたい気分だったので、心の底からライスの口になっていた。
店員さんが注文を取りにやってきたときも、メニューのライスを指差しながらライスで、中辛ねとはっきりと伝えたはずだった。
厨房に向かってライス、チュウカラ、イチみたいなやり取りが聞こえた気もして、よし、今日は久しぶりにカレーライスとして楽しむぞ、と静かにスタンバイしていた。
それから数分後、厨房のほうからお待たせしました〜と威勢のいい声が聞こえてきて、テーブルの上にドンと料理が置かれた。
……あのさ、やっぱりこうなるんだよな。
目の前に現れたのは、どう見てもお米ではなく、バスケットからはみ出るほど巨大なプレーンナンだった。
お皿じゃなくて、ちょっとした工芸品かと思うくらいにデカい。
横幅なんてテーブルの端から端までいきそうな勢いだ。注文のとき、僕の口から発せられたライスという日本語の響きは、彼らの耳には完全にナンという音に変換されて脳内を通過したらしい。
このお店では、お客さんがどんなに真剣にライスを希望しても、神の見えざる手によって必ずナンが運ばれてくるという、宇宙の真理のようなシステムが働いている。
過去にも何度か同じようなことがあって、そのたびに心の中でいや、ライスって言ったんだけどな……とツッコミを入れてきた。
でも不思議と、怒る気にはならない。なぜなら、目の前にあるナンが、最高に美味しそうだからだ。
焼きたてホカホカのナンは、表面にうっすらとギーが塗られていて、照明の光を浴びてテカテカと輝いている。
香ばしい小麦の香りが鼻をくすぐり、湯気と一緒に食欲をそそる匂いがふわっと立ち上る。
ちぎろうと指を伸ばすと、外側はサクッと、中はもっちりしていて、ほんのりと甘みがある。
おまけに、注文通りに頼んだ中辛のチキンカレーにつけて食べると、これがもう、文句なしに美味しい。
まあ、いっか。
結局、心の中でそう呟いて、僕は大きすぎるナンを豪快にちぎってはカレーに浸し、パクパクと食べ進めてしまうのだ。
本当はお米をかきこみたかったはずなのに、気づけば目の前の巨大ナンはみるみるうちに減っていき、お腹はパンパンに満たされている。
食後に小さなグラスで出てくる、あの激甘のチャイを飲み干しながら、ふと思う。
あの店員さんたちは、わざと間違えているわけじゃなくて、きっと美味しいナンを食べさせてあげたいという親切心……あるいはうちはナンが自慢なんだから黙ってこれを食えという温かいおせっかいなのだろうか。
真相は藪の中だけど、こういう予定調和なハプニングも含めて、近所のインド屋さんでのランチタイムは、忙しい日常の中でちょっと肩の力が抜ける、大切な時間なのだと思う。
会計を済ませて店の外に出ると、秋の涼しい風が心地よく吹き抜けた。
お腹はすっかり重たいけれど、なんだか心は軽くなっている。また近いうちに、今度こそライスを死守するつもりで、懲りずにまたあの扉を開けに行こうと思う。